総武線「西船橋」駅と「船橋」駅の中間あたりに“海の神”という地名を持つエリアがある。江戸時代まで漁が盛んな宿場街だった。海上での安全と豊漁を祈る人々が暮らしていたこの地ならではの地名「海神」。大きく息を吸い込むと、微かに香る海風の匂いに気づくだろう。
この地で3世代、船大工を生業としていた現オーナーの先代により、今回ご紹介する2階建ての軽量鉄骨アパートが建設されたのは1970年代後半。積水ハウスのBFA型というその後量産される同構造のアパートの中でも初期の型で、良質な住空間をいかに多くの人に供給するかを考えた当時の工業生産技術の賜物だ。生活環境も量より質が問われる今、このプレハブアパートを、街とオーナーの記憶をヒントに再解釈したのが今回ご紹介する『SOU』だ。
『SOU』に入居を決めた伏見さんは新婚のご夫婦。夫は建築関係の出版物の編集、妻は建築設計事務所勤務とご夫婦ともに建築に造詣が深い。
「木賃再生プロジェクトをきっかけに、編集者としてブルースタジオさんの活動には注目していたんです。福田首相が200年住宅ビジョンを提言した2007年頃から、ストックをいかに活用していくかということはメディアで大きな話題となっていて、雑誌で再生事例を取り上げることも多かったですね。そんな中、結婚を機にいざ自分達の住まいを探すことになったのですが、仕事のように、この住宅の社会性にまず惹かれてしまって」と笑うご主人。
物件探しの時期にちょうど取材をしていたのが団地やプレハブアパートなど量産住宅だったことから、『SOU』のプレハブアパートを再生する取り組みそのものに関心を持ったことがきっかけと言う。
「私の職場に近いことを条件に夫が選んできた物件を見学して、私が感覚で気に入ったのが『SOU』でした。3面に窓があって明るく、風が気持ち良く抜けるところが気に入って」と奥様。
物件探しはご主人が担当し、最終的な判断は奥様に委ねる。左脳派のご主人と右脳派の奥様の見事な役割分担で、『SOU』への入居を決めた。
玄関ドアを開くと3方面ある窓から差し込む光が眩しいワンルーム空間が広がる。手前にキッチンとコンパクトなダイニングスペース、右手奥にリビング、左手奥には木の引き戸で仕切ることができるベッドスペースが続く。寝室からウォークインクローゼット、キッチンへと回遊できる導線が、広さと暮らしやすさを感じさせる。
「寝食を分けたいということと、水周りの清潔感は大切でした。この部屋はどのスペースにも窓があるので、光と風が抜けが気持ちがいい。朝起きたときに両手でカーテンをバっと開いて沢山の光を浴びるのも楽しみで」と奥様。
「新調した家具のほとんどが無印やIKEAでリーズナブルに買い揃えたものです。住んでから寸法を測ってサイズに合ったものを探してきましたね。職業柄、きっちりと(笑)。
このアパートは家賃もそんなに高くないし、設計者のデザイン色が強すぎることもない。これからふたりで住まいをつくり上げていく僕たちにはちょうど良い建物でした」とご主人。
結婚するまで実家で暮らしていたという2人は、自分たちのオリジナルの生活を『SOU』で初めてつくりあげていく。
量産された画一的なアパートに魅力がない訳じゃない。面白い使い方が気付かれていないのが勿体ないだけなのだ。余分なものをそぎ落としたシンプルな住環境。それは、使い手のセンスや好み、ライフスタイルによって、いか様にも変化をしながら、飽きることなく使い続けられる可能性をもっている。
海神のプレハブアパート『SOU』も、リーズナブルでありながらシンプルで居心地の良い住まいとして、これから先も人から人へ住み繋がれていくのだろう。
2011年7月9日 『SOU』にて
撮影:笹本直裕 取材・文:和田亜弓 (共にbluestudio)
<今回の入居物件のご紹介>
千葉県船橋市海神 『SOU(ソウ)』
専有面積:42平米
竣工年:1970年代後半
リノベーション完了:2011年1月
物件詳細は、「借りる」の『SOU』をご覧下さい。
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