小劇場、古着屋、路上ミュージシャン。商業施設はチェーン店からお洒落なカフェ、渋い珈琲店まで。それらが2路線の交差する駅を中心に、ギュッと凝縮されている街、「下北沢」。個性的な若者が行き交う賑やかな駅周辺の通りを抜けると、静かな住宅街に入る。
シェアハウス『pinos』はそんな下北の路地先に佇む。眩しいほど真っ白な外壁、2階の玄関まで続く階段はオレンジ色のテラコッタ、入り口にはパエリア鍋の表札がぶら下がる。『pinos』はスペイン語で松ぼっくりの意味。9人の住人が同じ屋根(房)の下に暮らすイメージから名付けられた。
「初めて建物を見に来たとき、細い路地先の奥まったところに『pinos』を発見して「カワイイ!」と。一気にテンションがあがりました」。
そう話すのは、2010年の1月から入居する西嶋さん。ブルースタジオのメールニュースで、『pinos』の入居者募集を知った。
「まずは家賃を見て、「住めるな」と(笑)。でも、シェアハウスという選択肢は頭になくて、大丈夫なの?と心配する友人の声も多かった。それで自分なりにネットで調べたんですが、ブルースタジオのWEBサイトでしか募集していなかった。大々的な広告で誰でも入居できるのとは違って、このサイトを見ている人なら何か共通言語があるんじゃないかと思ったんです」。
西嶋さんが『pinos』へ引っ越した日、既に5人の住人が1週間前から入居を始めていた。いつもは初対面で人見知りをするが、なぜか『pinos』では他の住人とすぐに打ち解けられたそう。
「初日に物干し竿を売っているお店を他の住人に訪ねたら、「じゃあ一緒に行こうか」と当然のように店まで連れて行ってくれたんです。まだみんな知り合って1週間のはずなのに既にお互いに慣れている感じで。すごく自然に迎え入れてもらいました。」
築40年を超える下宿スタイルの建物をリノベーションしたシェアハウス『pinos』。共用の玄関とキッチン&リビング、シャワー、トイレが備わり、各住人専有の居室が建物内の中廊下を挟んで左右に並ぶ。現在『pinos』には、年齢も職業もバラバラの男女9人が入居する。
「すごく若い人が多いんだろうなと思って入居したんですが、意外と30歳前後の住人が多かった。私はちょうど中間の年齢ですが、この家にいると年の差がほとんど気にならない。年上の人をおちょくることもできるし、年下の人を尊敬することもできる」と西嶋さん。
『pinos』の生活で予想外だったのは、他の住人と顔を合わせないことが意外と多いこと。働き盛り、遊び盛りの住人達。シェアハウスに住んでいても、それぞれの生活リズムが守られているようだ。普段の食事はバラバラだが、日曜日の夜は約束をするわけでもなく自然とリビングに住人が集まり、一緒に料理を作ったり、友達も招いてみんなでテーブルを囲むことが多いそう。
「住人は性格も好みも様々だけど、みんな程よくキレイ好き。極端にキレイ好きだったり、逆に散らかす人がいるとこの生活は難しい。本人も周りの人も疲れてしまうと思う。」と西嶋さん。
どんなに夜遅くまでリビングで過ごしても、次の日起きてくるとテーブルの上は片付いているという。家族という慣れ合いもない、元は赤の他人だった人が集まって住むシェアハウスには、適度な緊張感がある。誰かが片付けてくれたんだと思うと、自分も気を付けようと思う。そんな気づかいや意識の連鎖がみんなの共用部をキレイに保っているのだろう。
写真上:共用のリビング。休日の昼はいつもこんな様子。
「シェアハウスに住んでいると、1人でいるより情報が入ってきやすいなと感じます。住人それぞれが職業や趣味を持っているから、コンピューターに詳しい人がいたり、美術館で働いていて面白いイベントを知っている人がいたり。馴染みのなかった下北のことも、クリーニング屋がどこにあるとか、あのお店が美味しいとか教え合ったり」。
そう楽しそうに話す西嶋さんの職業は、公園や小学校などの遊具のデザイナー。部屋には、照明からテキスタイル、食器や置き物など、至る所に国内外のデザインされた物が溢れ、職業やセンスの良さをうかがうことができる。
福岡出身の西嶋さん。『pinos』の前は、地元福岡の友達と2人で住居をシェアして暮らしていた。その家は同じく上京している地元の友人達の集まり場となり、たくさんの友人達に囲まれた賑やかで楽しい4年間を過ごしたそう。そんな楽しい日々の後、さらなる新しい人との出会いに期待して『pinos』へ入居した。
「『pinos』の住人はもちろん、更にその友人や彼氏彼女まで、この家に住んで友達が一気に増えました。3回会えば友達とよく言いますが、この家に1度遊びに来た人達が、この家での人とのつながりを好きになってまた遊びに来るんです。外で会うのとは違って、家に居るときのリラックスした素の顔を見せるから安心できる。仲良くなりやすいんだと思います」。
人への興味。人との会話。人への気遣い。みんなで暮らしている意識を持ち、人とのつながりを積極的に楽しむ。『pinos』では、そんな価値観を持つ人々の交流が生まれているようだ。
2つのシェア生活を経験した西嶋さんに、次はどんな家に住みたいかを聞いてみた。
「まだ具体的ではないけど、次はシェアハウスではないと思います。年齢も関係しているけど、楽しかった思い出が間延びしてしまうのが嫌なので。『pinos』での生活にも期限を決めて、楽しかったこの時期を、一生の思い出としてずっと持っていきたい」。
2010年9月11日 『pinos』にて
撮影:笹本直裕 取材・文:和田亜弓 (共にbluestudio)
<今回の入居物件のご紹介>
専有面積:9.35平米
竣工年:推定1960年代築
リノベーション完了:2009年11月
物件詳細は、「借りる」の『pinos』ご覧下さい。
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