東急池上線、洗足池駅の目前に広がる洗足池公園を背にすすむ道中、せせらぐ小川沿いの木々には緑が生い茂り、道行く人々に木陰をつくり出している。春には桜が、6月にはアジサイが、秋には紅葉が。季節折々の自然が人々の目を惹き付ける。
この通りを15分程歩いた先の住宅地に建つ工場のような外観の建物が『YT-1』ビルだ。エントランスをくぐると、2階まで吹き抜けの開放的な空間が出迎えてくれる。
写真右:『YT-1』ビルのエントランスホール。
2010年1月、リノベーションによって『YT-1』ビルの共用部と専有部の1室が生まれ変わった。現在は更にもう2室のリノベーションが進行中。少しずつ手が加えられ、将来的に「工房生活」という新しい物語が一貫して流れる集合住宅となる計画だ。
この第一弾目の部屋に入居を決めたのは、カメラマンの小山昭人さん(FACE)。自宅 兼 仕事場として『YT-1』を使っている。
「これまでは、代官山、広尾、恵比寿など、城西エリアの1LDKのマンションを自宅 兼 仕事場として借りていました。というのも、フィルムで撮影していた頃は現像所の近くに住まなければ時間がもったいなくて。でも、撮影がフィルムからデジタルに変わったことで、これまでこだわっていたエリアの条件をすっぱり外すことができるようになったんですよ。」
なるほど。確かに想像してみると、フィルムかデジタルかによってカメラマンの仕事のスタイルは180度変わる。デジタル撮影では、撮影後にパソコンに向かって画像処理をする時間が必要になり、住環境においては、作業に集中できることや居心地良さが重要になってくる。
「仕事のスタイルが変わって家で過ごす時間が圧倒的に長くなったので、家探しの基準は空間ありきに変わりました。ここは駅から少し離れているけど駐車場付きで、車で移動することが多い僕には特に不便もなかった。賃料や広さのバランスもちょうど良いハコに『やっと出会えた!』という感じでした。」
『YT-1』を表現するなら、住居より「ハコ」と呼んだ方がしっくりとくる。エントランスからキッチン、サニタリーまで続く光沢ある白い土間や、北西側一面の巨大な開口部。部屋の中央部から敷きつめられたフローリングは、幅の広い板を打ち付けたようにも見えてくる。
約40平米のワンルームをゆるやかに2分しているのは、ざっくりした印象のウッドチップボードの間仕切り。小山さんは2分された空間のうち、大きいスペースを仕事場として、小さいスペースを寝室やクローゼットなどのプライベート空間として使っている。
写真右:ミニマムなプライベート空間。洋服や機材の収納も、ラックやボックスを駆使して自由にアレンジしている。
空間の中央には大きく余白が残してある。これは撮影に出掛ける前に沢山の仕事道具が床に広がるのため。よく見ると、デスクや収納の脚にはすべてロールが付けられていて容易に移動しやすい工夫がされている。
エントランスの土間にどっしりと鎮座しているのは、この部屋の余った床材で作られた、面が大きくシンプルな木のテーブル。
「物件を案内してもらった時に『テーブル付き』と聞きました。自分でいざ購入しようとすると、見つけるのも選ぶのもなかなか難しかったりする。このテーブルはとても気に入っていますね。」
「一言で言えば、この部屋はアレンジが効くんです。そのヒントになるようなものが沢山用意されているんですよね。」
小学校の図工室で見るような孔あき合板の壁には、自由に位置を変えられる棚板が付き、小山さんは画像処理をするための機材や書籍などをバランスよく配置している。ライティングレールに並んだペンダントライトは、光を照らす位置を容易に変えることができ、ちょっとした撮影をするのにも好都合だった。
「もともと職業にするために写真を始めたので、これまで仕事以外に写真をじっくり楽しむってことをしてこなかったんです。でもタイミングよく出会ったこの部屋が、カメラマンのための部屋かな?と思うくらい僕にぴったりで。これを機に、趣味としての写真も楽しみたいと思ってるんです。」
そう楽しそうに話す小山さん。写真に興味をもったきっかけは、映画や雑誌と違い、1人でも完結できることの面白さだと言う。1つの広告をデザイナー、スタイリスト、アートディレクターなど大勢で創り上げることも、カメラマン1人で撮影から現像、見せ方までにこだわった作品を創ることもできる。
あらかじめ空間に用意された“ヒント”は住み方のアイディアを生むきっかけになる。ブルースタジオの賃貸物件の入居者を訪ねると、作り手の想像を超えた空間の使い方に遭遇することも多い。
『YT-1』の間仕切りのウッドチップボードの壁には、程良い“自由”が住人に与えられている。次に小山さんを訪ねるときには、大きくプリントした自分だけの作品が、この壁にピンで飾られているかもしれない。
2010年6月18日 『YT-1』に
て
撮影:笹本直裕 取材・文:和田亜弓 (共にbluestudio)
<今回の入居物件のご紹介>
専有面積:48 平米
竣工年:2002年6月
リノベーション完了:2010年1月
物件詳細は、借りる『YT-1』をご覧下さい。
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