JR山手線「田町」駅の東側に位置する運河の街、芝浦。近年はタワーマンションなど湾岸居住エリアのイメージが強いが、かつては工場や倉庫などの商工業施設が大半を占めていた。
1986 年、この芝浦の地に建設され、20年間オフィスビルとして使われてきた建物を、1棟まるごとSOHOビルにコンバージョンしたのが『ラティス芝浦』だ。 80年代バブル期、芝浦地区には倉庫を改造した有名ディスコが存在し、ディスコブームの発祥の地として脚光を浴びていた。「芝浦」と聞いて、その時代を さっと思い出す人たち。『ラティス芝浦』は、そんな遊びという遊びを知り尽くしたクリエイティブな人々のためのSOHOだ。
踏み入れると、漆黒の絨毯に階高3.8メートルの空間が広がる。この部屋は『ラティス芝浦』の2階にオフィスを構える、広告制作会社A-MILIGHT DESIGN の千布真也さんのオフィス。
「以前は千葉にオフィスを構えていました。ビルの1階を、僕ともう1人のスタッフで天井を解体して、壁を塗って。愛着がありましたが、スタッフが増えたので移動を考えていたんです。」
東京でオフィス探しを始めたが、渋谷、六本木、原宿といったデザイン業界のメッカは敢えて外した。ニュートラル。クリーン。ゼロ。良い意味で、中立でありたいと考えてのことだ。
「自分の趣味や好きなものの影響って、仕事にも表れやすいと思うんです。でも、広告制作者として、できるだけ癖を出さずにまっさらな状態で考えたい。個性がないと言えばそれで終わってしまうのですが、ニュートラルであることが個性だとも思うんですよ。」
空間選びでも、デザインされすぎたものは気に入らなかった。求めていたのは、そこからどこにへでも向かっていけるような、ゼロの空間。そして出会ったのが、『ラティス芝浦』だった。
芝
浦のかつての倉庫街を想わせる塗装壁やむき出しの配管、巨大な開口部。シンプルな空間に、以前から使っていたという椅子やテーブルがしっくりと馴染む。
入ったときに1番広く感じられるよう、壁に沿って7つのデスクを配し、エントランスから部屋の中央にかけてスペースをつくっている。
「仕事で商品を撮影することが結構あるんですが、このあいだエントランスの土間を使いました。スタイリストさんに入ってもらって、土間に沢山の花を敷き詰めて。今度は、人の撮影もしてみたいです。」
部 屋にはバスルームとキッチンが備わり住むこともできるが、A-MILIGHT DESIGNでは、あくまでオフィス利用。書類は一定期間内に電子化する、帰るときにはデスクの上に物を置かないなど、ルール化しているので、驚くほどに 物が少ない。生活を感じさせない空間は、踏み入れると頭をクリアにし、集中力も増すだろう。使っていないバスタブは、意外にも撮影用の大量の植物を冷やす のに役立ったそう。
写真右:A-MILIGHT DESIGNがオンラインショップを制作している「John masters organics」 。
主に広告印刷物とWEBサイトの企画・制作を手がけるA-MILIGHT DESIGNだが、以前千布さんが経営していたのは、意外にも飲食店だという。
「24 歳の時に、独立を決めたんです。400万の資金で自分ができることは何だろう?と、考えぬいて始めたのがカフェバーだったんですよ。お客様と直に話して、 その人の楽しいツボみたいなものを探していました。楽しんでもらえれば、自然とお酒も沢山売れていくじゃないですか。どうしたら口コミしてもらえるかを考 えて、イベントも企画してましたね。」
“自分から働きかけたものには、必ず結果が返ってくる”。千布さんがアメリカに1人で滞在し、誰から も催促されない毎日を送るなかで掴んだ答えだ。回り道であっても、その先の目的を見据えての過程には、必ず吸収できるものがある。飲食店の経営では、人と のコミュニケーションで成り立つ商売の基本を学んだという。
「このあいだバルコニーに出ていたら、ちょうど隣の人も出ていて、声を掛けてもらったんです。それがきっかけで、先日一緒に仕事をしたんですよ。」
デザイナー、写真スタジオ、web制作など、少数精鋭な事業者の集合体でもある『ラティス芝浦』。全60戸のキャンバスのような部屋では、それぞれが様々な色を描いているだろう。それらが混ざり合い、新たな仕事が派生していくことも多そうだ。
2010年3月2日 『ラティス芝浦』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓 (共にbluestudio)
<今回の入居物件のご紹介>
東京都港区芝浦 『ラティス芝浦』
専有面積:63.11平米
竣工年:1986年
リノベーション完了:2006年
http://www.bluestudio.jp/#/rent/94/
2010年3月5日現在、入居者を募集中の物件です。詳細はこちらをご参照ください 。
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