ラティス青山へ、入居のきっかけ
2003年にブルースタジオの設計・監理により、新たな物語を吹き込まれた『ラティス青山』。「クリエイターズヴィレッジ」のコンセプトのとおり、SOHO部分のデザインのみならず1Fと地下スペースを含む建物全体のテナントミックスにより、入居するクリエイターにとどまらず、周辺居住者の利便性とコミュニケーションをも誘発する複合ビルとしての役割を担っている。
この建物の203号室で働いているのは、ホテルやスパなど商業施設のインテリアデザインを手掛けている株式会社エールテック(Sept Jasmin)の佐々木弘美さん。2008年の10月に『ラティス青山』に入居した。
「8年前に父から引き継いで1人で始めた仕事で、長いこと組織事務所に所属していましたが、私に、とお仕事をいただくようになり、乃木坂に小さなワンルームを借りて独立したんです。それが、1年のあいだに物も人も増えていって。別のところに移らなければと考えていたときに、ちょうど『ラティス青山』に空きがあることを知りました。」
空室だった2部屋を内見して、入居を決めた202号室。実は1ヵ月前に建物内で引っ越しをして、隣の少し広い203号室に移転したばかり。デザイナーという職業柄、スケッチを描いたり素材を並べて検討したりと物を広げて作業することが多いため、平面のスペースを多く確保できるようワンフロアタイプの部屋を選んでいる。部屋の中ほどに置かれた作業台は、収納棚を2段重ねて横にして置いたものだ。
「このアンティークのドアは、乃木坂にいたときから持っていたものです。この棚は、『ラティス青山』に入居するときに同じお店で買ったアンティーク。こういう古い物と女性らしいエレガントな物が好きで、このオフィスもそんな雰囲気にしたいと思いました。」
コンクリートの躯体がむき出しの天井に黒い塩化ビニールの床。シンプルで無機質なワンルームの空間に、佐々木さんの大切な家具やロウソク、鏡などの美しく繊細な物が置かれている。この天井のざっくりした感じも、佐々木さんの気に入ったところ。
ワークスペースとパブリックスペース
一緒に仕事をするパートナーとこの部屋で打ち合わせをすることが多いという佐々木さん。最初の打ち合わせでは、1階に入っている246 CAFEの看板が良い目印になるそう。
「246カフェは、クライアントとの打ち合わせで利用しています。イメージ写真が少し欲しいときには、ささっと下の本屋さんに行って探してきたり。インテリア雑誌できっちり探すよりも、良いイメージが見つかることが意外と多かったりするんです。」
ラティス青山には、28戸の小規模SOHOが入っている。各居室はミニマムなクリエイター達の個のワークスペース。1階の246 CAFEはミーティングスポットやクリエイター達がひと息つく場所として、洋書も扱う書店BOOK 246 は資料庫として機能するパブリックなスペースになっている。
「知り合いの社長さんから聞いたお話ですが、オフィスを居心地の良い空間に改装したら、スタッフがくつろぎすぎてしまって仕事の効率が落ちてしまって。またかっちりしたオフィスに戻したんだそうです。」
佐々木さんのオフィスでも、ソファやTVを置かないようにしたり、忙しくても夜には家に帰るようにしてケジメをつけているそう。
「でも、どこへ行くにも必ずここに立ち寄って行くし、この部屋は私の生活の1部みたいなもの。だから私はここでお茶を入れて飲んだり、自分の好きな物を置いたりして居心地の良い場所にしておきたいと思っていますね。」
この街の風景として
『ラティス青山』の向かい、青山アパートメントの裏には昔ながらの商店がまだ残っている。オフィスのゴムの木の調子が悪くなったとき、植木屋さんがわざわざ見に来てくれて元気に回復させてくれたことがあったそうだ。また、オフィスの椅子は知人からゆずり受けた物もあるという。
「まだ駆け出しで余裕がないのが本音。まわりの方々には、良い仕事をして返していかなければと思っていますね。独立をするか迷っていたときに友人が言ったんです。『人生、何度も風は吹かないよ』って。それで吹いてきた風に乗ってみてもいいんじゃない?と思ったんです。」
いただいた1つ1つの仕事に丁寧に取り組んでいくのが、佐々木さんの仕事のスタイル。現在は4人のスタッフを抱え、オフィスも少しずつ大きくなった。
1つ心配なことがあるんです、と話を切り出した佐々木さん。
「このラティス青山がなくなってしまったらどうしようって。当然私もいつまでここで仕事をしているかは分かりませんが、ずっと、ここに、この建物が風景として残っていて欲しいと思います。」
高度成長期に建築され、40年間この南青山の地に建っていた『ラティス青山』。蓄積された街との関わり合いや、人々が見ていた風景を壊さずに再生され、新たな役割を担って今も生きる。南青山周辺エリアの商業も活発になり、賑わいを増した。この街の風景として、この建物は沢山の人々の記憶に刻まれている。
ここに入居するクリエイター達や周辺の住民に愛着をもってもらえるか。 建物の再生による新しい物語は、そこから生まれていくものだろう。
2009年8月20日 『ラティス青山 203号室』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓 (共にblue studio)
<今回の入居物件のご紹介>
東京都港区南青山 『ラティス青山』
専有面積:30平米
竣工年:1965年
リノベーション完了:2003年
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