空きスペースをギャラリーへ
写真右:『FEMTE』の外観。
5階建てのコンパクトなビルを一棟リノベーションした『FEMTE』。この2階を借りているのは、デザイナー石井大吾さん。ブルースタジオの元スタッフで、『FEMTE』の設計者でもある。
2007年のリノベーション完了後すぐに、自宅とは別のアトリエスペースとして部屋を借りはじめた。2階の部屋は設計の段階からSOHOとして計画され、メインフロアは一面モルタル仕上げの土間仕様。
「今は主に、お客さんとの打ち合わせスペースとして使っています。テーブルだけは大きなものを置いていますが、他はほとんどものを置いてない。打ち合わせ用の写真集などはここにありますが、カタログなどはすべて自宅に置いて、図面も自宅で書くことがほとんどですね。」
『FEMTE』は各階が様々な用途で使われている。オーナーのメゾネットタイプの住居である4階、5階部分。賃貸物件である2階、3階部分。駐車場の1階。そして、使われず物置と化していた地下の倉庫。
「存在すら忘れ去られていた地下スペースをギャラリーに」。ずっと考えていたこのアイディアを実現させるため、石井さんは何人かの作家へギャラリースペースの宣伝を開始した。そして、その第一弾、作家山下香里さんの個展が現在開催中である。
写真上:設計のお客様との打ち合わせスペース。個展中はギャラリーとしても公開している。
個展開催へのプロセス
山下香里 個展『脱臼する地下、空景』
作家 HP/http://www.kaoriyamashita.com/
写真右:作家山下さんの作品の1つ
きっかけは2008年9月、所沢で開催された美術展「引込線」。そこで作家山下さんの作品を見た石井さんは、『FEMTE』の地下スペースの空気感にぴったりだと感じ、個展の話を作家へ持ちかけた。10月、実際にスペースを下見に来た山下さんは、即決で、ここで個展を開くことを決めてくれたと言う。
それ以前にも、何人かの作家へ話を持ちかけていたが、展示場所としての実績がないため、すぐに決めてくれる人がなかなか出てこなかった。ことが前に進まない時期が長く続いた。シンプルな展示スペースのオープン。それでも何かを始めるのには、時間もお金もかかること、その大変さを実感したそう。
いざ個展の開催が決まると、仲間が集まり、会場づくりやDMの作成などが進んでいった。12月、地下倉庫の荷物を運び出し、作家自身と友人4人が、まる3日をかけて壁と天井をペンキで真っ白に塗り上げた。もともと付いていたやや緑がかった光を放つ蛍光灯はそのまま利用。作品の選択や配置が綿密になされた。そして1月31日、ついにFEMTE初の個展はオープンを迎えた。初日に開かれたレセプションパーティーでは、料理人の友人がフードを用意。仲間とのつながりがあり、助け合うことが本当に多いそうだ。
写真上:地下の展示スペースで開催中の個展「脱臼する地下、空景」の模様。右は映像作品。
人と出会うきっかけの場所
写真右:今回の個展のパンフレット。
個展開催の裏には、地下スペースの使用について相談に応じてくれたオーナーの存在があり、個展に向けて素早い行動を起こしてくれた作家山下さんとの出会いがあった。
「時間がかかりましたが、今回の展示をここでできたことに満足していますし、第一回目を山下さんとできて良かったと思っています。この部屋に限らず、これからも自宅やオフィスの他にギャラリースペースはもっていたい。これからも個展をやっていきたいし、作家を紹介していきたい。そういったスペースをもつことは、色々な人に出会うきっかけになるんです。ずっと会っていなかった友人が訪ねて来てくれたり、作家を知ることにつながったり。」
海外では、一般の人が美術品を買う風習があったり、良い作品や作家を発掘したいと考えているコレクターの存在がある。それに比べ日本では、美術品を見る目が育ちにくく、作家として生きていくには厳しい国であると言われている。
「作品は見る人がジャッジしていいと思う。よく分からなければよく分かんないでもいいし、俺は好きじゃないでもいい。それすら言いにくくなっている雰囲気を感じます。誰かがいいというまでは、誰も動いてくれないのが日本かもしれない。少しずつ変化していると思いますが・・・」
『FEMTE』のギャラリーの使用料は、“応相談”で決めている。一般的な使用料に比べかなり低くすることもあるが、それは「作家を紹介していきたい」という石井さんの気持ちからきているところが大きい。
個展は、建築家と作家のコラボレーションでもある。建築フィールドの人間と美術フィールドの人間の接点を作り出し、日本の美術界に更なる挑戦の機会を作りだそうとしている。
2009年2月13日 『FEMTE』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓(共にblue studio)
<今回の入居物件のご紹介>
東京都中野区『FEMTE』
専有面積:34.00平米
竣工年:1964年
リノベーション完了:2007年4月
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